果物ナイフ②
- 2014/06/30
- 00:00
「果物ナイフ①」で制作中だった作品の完成写真が撮れました!
「小春」
全長 320mm
ブレイド長 170mm
刃渡り 150mm
重量 105g
ブレイド素材 ニッケル・ニッケル合金・鋼
エッジ鋼材 青紙2号
口金素材 銅・真鍮
ハンドル素材 コークウッド
※画像をクリックすると若干大きいサイズでご覧いただけます
ご覧頂きましたように、形はシンプルな果物ナイフです。
しかしこのブレイドにはちょっと凝った構造のダマスカスを用いています。
上記の画像ではなんとなく横縞が御覧いただけるかと思いますが・・・
前回も掲載いたしましたブレイド表面の拡大画像です。じっくりご覧いただきますと四つ葉のクローバーのような模様が見えて来ませんでしょうか?中央右下あたりにわかりやすく見えているものがありますね。
この模様は、鋼材の断面に由来するものです。
こちらが使用している鋼材の断面です。
この鋼材で硬鋼を挟んでブレイドのダマスカスにしています。
これは、板目のような平行な層の模様ではなく、金太郎飴のように断面の模様をコントロールして楽しむタイプのダマスカスです。「モザイクダマスカス」と呼ばれているようで、僕もそう呼んでいます。
この模様を活かして、塊のまま削りだしてヒルト材に、また断面を並べて鍛接して幾何学的な模様のブレイドに、といった使い方をされることが多いようです。
こういった模様のある断面は、単純に層を細かくしても作ることはできません。
右下の方にクローバーの模様の四角が2個あるのをご覧いただけますでしょうか?
上記と同じタイプの、一段階前の鋼材をスライスしたものです。この断面の角棒を9本束ねてくっ付けて伸ばし、45°傾けて打つと上の鋼材になります。
さらに一歩手前の断面がこちらです。
この鋼材を90°ずつ傾けて4本束ねるとクローバーのような模様になります。
この鋼材は、ダマスカスを両刃の剣のような菱形の断面に打ち、それを丸めた後四角い棒に打ち固めて制作します。
残念ながら途中のものがなかったので、画像は違う目的で作った変な構造のダマスカスです。
今回の鋼材のような場合は通常の水平に積み重ねたダマスカスを使います。
やはり資料がないので違う鋼材の画像ですが・・・
この縞が曲がって組み合わされてクローバーの形になっていくわけですね。
ここからさらに遡ると、とうとう市販の鋼材に戻ります。
ダマスカス制作のスタート地点です。
ということで、前回と合わせて行程を逆順にご紹介してまいりました。
このダマスカスは模様がわかりやすく、特徴的です。
最初に組み立てた部分ががどんどん小さくなっていくのがおわかりいただけたかと思います。
これを利用すると、手では彫れないくらいに細かい部分も作為的にコントロールできます。
ダマスカスの楽しさの一つですね。
とはいえ折角コントロールした幾何学模様もこの作品のように普通に使うとほとんど台無しですが…
しかし、モザイクダマスカスをこのように使うと、「よく見ると模様の中にまた細かい模様があり、なんだか規則的な形をしている」という構造になり、これが気に入っています。
このような模様は生物の組織に見ることができる模様によく似ているような気がするのです。
ダマスカスに感じる生き物のような雰囲気は、生物組織に似た模様が見せてくれる錯覚なのかもしれません。
僕はその錯覚がとても楽しく、ダマスカスの魅力もこの細部の構造に感じています。
そんなわけでいつも細部に凝ったダマスカスを制作し、もっと分かりづらく使って無駄使いしています。
まあ、そうした個人的な思い入れはさておきまして・・・
単純にブレイドを眺めるときにも、そうした細かい模様は楽しいです。
僕がダマスカスの模様を見るときには、全体の縞々模様の中にかっこいいポイントを探して楽しんでいます。
しかし誰かにブレイドを見てもらい、
「この黒っぽい縞々の間の向きの違う縞々の中の光っている二種類の層がゆがんでだんだん広くなってふっと消えているところがこの位置に来ているのがチャームポイントです!ここです!」
と力説して、ポジティブな反応を返していただけるケースは極めて稀です。
喜びを共有できないのはとてもさみしいものです。
うろ覚えの知識なのですが・・・以前、日本刀の観賞会で、刀の模様の見方について「景色」という単語を使って説明していただけました。
電車に乗った時や散歩する時などは、漫然と風景を眺めているようで、同時にサクラの花や水中の魚など、空間の中で色々と目についたポイントに注目して見ていると思います。
ブレイドの模様を見ているとき時もそんな感じです。
こういうニュアンスで「景色」という言葉が出てきたのかな、と昔の観賞会の記憶が浮かんできました。
ブレイドの表面の模様に色々なチャームポイントを認識できると、ブレイドの中に広がりと奥行きが生まれ、窓越しに庭を見ているような気分になれます。
この作品は、そうしたポイントがわかりやすいです。
ブレイドに、よく目立つ四つ葉のパターンがあります。
ブレイドの中を散歩して、四つ葉のクローバーを見つけていただければ・・・ダマスカスブレイドの魅力を知る手掛かりになるかもしれません。