月々03
- 2014/12/14
- 09:43

「月々03」
サイズ 200mm×64mm×38mm
ブレイド径 64mm
重量 365g

ブレイド鋼材 ダマスカス14090901S(ニッケル/ニッケル合金/鋼/ステンレス 2589層)
エッジ鋼材 GO5

軸金具素材 ダマスカス14091901C(銅/真鍮/洋白 63層)・ステンレス
ネジ素材 ダマスカス13081303C(銅/真鍮/洋白 44層)・ステンレス・真鍮
ハンドル材 レースウッド

※画像をクリックすると大きいサイズでご覧いただけます。
前回まで長々と工程をご紹介してまいりました、ピザカッター11号です。

このピザカッターのシリーズは毎回二個セットで制作し、それぞれの円盤を満月と新月に見立て、着色方法や軸の色を変えています。
画像上の黒っぽいモノのののような雰囲気で、とのオーダーをいただき制作いたしました。
同じようにはいきませんでしたが、今回のブレイドもなかなかの出来です。

表側は細かい層が広く現れ、シックな雰囲気になりました。
着色後は、黒っぽい地の色の中でところどころ黒蝶貝のような色に光る層があり、なかなかじっくり楽しめます。

保持する裏側は、有彩色になる素材の太い層が現れ、分かりやすく虹色が楽しんでいただけます。
一枚で二度おいしい仕上がりです。
軸の素材は竹から木に変更になり、すっかり当初の笛の要素はなくなってしまいましたが、

軸の中の棒を筒状に加工してみたり…、

グリップエンドにも空気の出口をイメージした金具をつけてみたり…錆びたり腐ったりしそうですので貫通はしていませんが。
個人的な愛着で、なんとなく前作のイメージをひきずっています。
今回変更した回転軸周りも、すべらかに動いてくれました。
こすれあう部分はステンレス製にしましたので、長持ちするかと思います。

分解も前作より簡単になり、メンテナンスの負担も軽減されたかと思います。
僕がナイフのブレイドに用いるダマスカスは炭素鋼をメインにしたもので、雑に保管すると錆びてしまいます ピザカッターでは円盤部分がダマスカスですね。
ピザカッターでは、使用後にソースなどがついたまま放置していると極めて錆びやすいです。一旦錆びると模様が見えなくなりますし、最悪動かなくなったり外れなくなったりすることも考えられます。
部材の合わせ目などは特に錆びやすいですので、分解清掃のしやすさに最も気を使っている作品です。

僕の作品のほとんどは、刃物本体のダマスカスと他の部品は、頑張れば分解できるように作ります。
これは、ダマスカスに別の素材を接着することには抵抗があったことに加え、このピザカッターのシリーズを制作し実際に使ってみて、使用後のメンテナンスと、そのための分解の必要性を痛感したことがきっかけになりました。
少し話が飛びますが…僕は刀について何も知らないころ、日本刀を「ぽんぽん」する光景にあこがれていました。
皆様も何らかのメディアで、何か布の玉のようなもので刀をはたく様子をご覧になったことはございませんでしょうか?
あれです。
後に、あれは日本刀を手入れする時の工程の一つで、刀の表面を清掃するために「ウチコ」という研摩力の弱い磨き粉のようなものをつけていく作業であると刀匠さんに教わりました。
日本刀の刀身も炭素鋼で出来ていますので、長く放置していると錆びてしまいます。そのために時折、表面の古い油と汚れを取り除き、新しく油を引き直すという作業が必要なのです。
あの「ポンポン」が、よくわからないながら「刀とか言う凄い刃物を持っている」方の特権のように感じられ、興味をひかれ、うらやましく思いました。
実際、大切にしている持ち物のメンテナンスに費やす時間は、「それを自分のものにしている」という実感と喜びに満たされる瞬間の一つなのではないでしょうか。
僕の作るダマスカスも同様のメンテナンスが必要です。
このピザカッターのように実用する作品はもちろん、飾っているだけの作品も、長く放置していると付着した埃や湿気にやられて錆びてしまいます。
その前に日本刀の「ポンポン」のように、清掃とオイルの塗布を行うことで、そのようなトラブルを防ぐことができます。
刃を研ぎなおし、模様の発色もやり直すとなりますと、僕にお任せいただくしかないと思いますが、こちらはオーナーさんご自身の手で行えるメンテナンスです。
刃の部分を取り外して汚れを柔らかい布や紙で拭きとり、防錆用のオイルを塗っていただけましたら、作品も痛みませんし、ちょっとした喜びに目覚めることができるかもしれません。
日本刀の手入れのような趣はありませんが、「作品を所有する」ということを楽しんでいただく方法の一つです。
どうにかお掃除できるように工夫していますので、時々メンテナンスしてやっていただきたいと思います。

最後になりましたが、今回の作品の現物は、東京のホテル「マンダリン オリエンタル 東京」38Fにある、「ピッツァバー ON 38TH」というレストランでお使いいただいています。
特定のピザをご注文いただいた際に、このピザカッターで切っていただけるそうです。
東京方面にお住まいで、そちらでお食事される予定があり、なおかつ現物を見てみたいという方。
いらっしゃいましたら是非そのピザを!