カラス 2_01
- 2013/12/18
- 23:02
ひさしぶりに「ギャラリー」の記事を掲載いたします。
今回は今年最初に作った作品の一つで、いつものうにうにしたナイフとは、ちょっと違う雰囲気の作品です。
「カラス 2_01」
全長 540mm
ブレイド長 345mm
刃渡り 320mm
重量 1050g
ブレイド素材 ニッケル・コバール・鋼
エッジ鋼材 青紙スーパー
ハンドル 綿・麻・ポリエステル樹脂・鋼
シース カイデックス(高橋智紀氏作)・鋼
※画像をクリックすると大きいサイズの画像がご覧いただけます。
僕が制作過程で作品の形を決めていく際には、「鍛造技法」と「ダマスカス」とを活かした「面白さ」を目指しています。
しかしこの作品は、それらと出会う前、ナイフを初めて手にとって以来の実体験や、見てきた刃物のデザインなどによって醸成された、なんとなくの「好み」を軸に「かっこいい」を目指した形です。
僕の好み、言い換えればこの作品のコンセプトになりますが、それがどういったものかといいますと…解説するにはダマスカスと出会う前のナイフのお話をさせていただかなければなりません。
最初のナイフとの出会いは人それぞれにある思います。
僕のそれは友人に誘われていった釣具屋さんで見つけて購入した、フィッシングナイフでした。
そのナイフはステンレスと黒いプラスチックでできており、同じプラスチック製の丈夫な鞘が付いていました。値段もお手ごろで、何より並んでいる中で一番長いブレイドが気に入りました。
当時、僕は小学校を卒業したての、ファミコンばっかりしてるインドア派の少年で、そんな子供がナイフを持っても、使い道なんてありません。
それなのになぜナイフなんて欲しかったのか…今思えば、ゲームの中の胸躍る冒険譚、さまざまな世界をめぐる主人公たちが装備していた「剣」の漠然としたイメージを、現実の世界で初めて見た「ナイフ」に投影して、憧れを抱いたのではないでしょうか。
結局、必要もないナイフで何をしていたかといいますと、持って眺めてみたり構えてみたり、モンスターに見立てたその辺の段ボールに切りかかってみたり…当時中学生なので許してあげてください…
そのようにインドアで大活躍した最初のナイフは、ツールではなく、プラモデルやフィギュアのような存在として定着しました。
そして、そのうちそのナイフでは物足りなくなり、より剣のイメージに忠実なものを求め、刃渡りや重量、ヒルトやガードのあるものを探して安いナイフを買い集め、仕舞には鉄板を削り始めました。
その際は、なんとなく似たような素材や色合いのモノ、愛着のある最初のナイフ+上記の要素という基準で形を選んでいたように思います。この過程で最初のナイフをベースにした「好みのナイフ」ができ上がったようです。
今年は工房の整備が一段落した際、ふと我に返って「なんでこんなことに…」とナイフとの馴れ初めを振り返ってしまいました。
そして懐かしくなり、一度その頃のナイフの延長線上にある作品を作ってみようと!思い立ってしまったため、この作品が誕生するに至りました。
というわけで、改めてこの作品コンセプトをご説明いたしますと、「最初のナイフの面影に、いろいろなファンタジーやSFに出てくる剣のイメージを練り合わせた自分好みのナイフのフィギュア」という感じになります。
ダマスカスを置き去りにして趣味に走った結果、普段と変わったテイストになった次第です。デザインには具体的にコレという元ネタは無いのですが、ごてごてした黒染めの金具とプラスチックのハンドルで、ちょっとメカメカしいSF寄りの雰囲気になりました。
「フィギュア」と言うことで、何よりもビジュアルのわくわく感を重視しました。が、ちゃんと使えます。やはりナイフは切れないとつまらないです。…ただし振り回すには腕力が必要なボリュームのナイフです。
もう少し画像がありますので、コンセプトの説明はこのあたりにして、そちらもご紹介いたします。
ブレードにはやはりダマスカスを使いました。折角作れるようになりましたので…そしてこれも折角の大型作品ですので、ダマスカスもちょっと凝っています。
刃先から背中に向かうにつれて、黒っぽい鋼材を減らし、だんだん銀色や白っぽい鋼材が増えるように狙ったダマスカスです。
水平に層を積み上げるだけでは運に左右されるため、層を傾けたり、断面をぎざぎざにしたり、工程ごとに模様を動かしたり…
色々いじったので理屈の上では最大53507層の練り練りダマスカスになりました。
模様もうまくコントロールでき、木目のように自然な雰囲気を残しつつ、見所の多い楽しめるブレイドになりました。
画像で模様がカラフルに見えるのは、薬品で発色させた際にできる酸化被膜による現象らしいです。
被膜の微妙な厚みによってミクロの隙間を通過する光の波長が異なるため云々…
ちょっと違うとは思いますが、ふるいの目を変えると通る粒の大きさが変わる…様な現象でしょうか?
ともかく、軽めに発色させて、いい角度で光を当てると鮮やかな色が観賞できます。
しばしば「油の色だと思ってた」というお話を伺いますが、むしろ油を塗るとほぼ無彩色の灰色になるようです。その状態でも光にかざすと微かに見ることができます。
ダマスカスの良さが生きる箇所も生まれました。
ときどき穴のあいたブレイドをもつナイフがありますが、それが目に見え、周囲が顔のように見えることがあり、面白いなあと思っていました。
この作品でも、それを再現しようとリカッソに穴をあけ、周囲を一段落としてみました。
ダマスカスをエッチングで処理すると、溶けにくい部分が繊維のように残ります。この形状ではそれが穴の縁に銀色の同心円に現れ、ぐりぐりした艶を放つので妙に目力のある穴になりました。なかなか愛嬌のある顔立ちになったと思います。
金具は炭素鋼の板を切り抜き、削りだし、電気分解で表情を付けた後、黒染め液で着色したものです。
ヒルトとポメルは「コ」の字型の構造で、ブレイド本体を挟み込むように取り付けています。それらに、サーベル風のガードを取り付けました。
ハンドルの素材は綿と麻の布を使ったFRPです。金具に合わせて沸いたような質感に加工しました。
また、金具にはネジがたくさんあります。ごちゃごちゃした金具を作りたかった、という理由が第一ですが、これを全部外すと、ブレイド、ヒルト、ポメル、グリップ、ガードに分解できるようにもなっています。
隙間がさびても容易にメンテナンスできます!
…できるのですが、お手元の橋本作品に錆、破損等のトラブルが発生した際は、まず、僕のほうにご連絡くださいませ。
シースの素材は今回もカイデックスです。
そのままでは本体と釣り合わないように見えましたので、このシースはバーナーと、鍛造で出る鉄の酸化被膜とを用いてテクスチャーを与えました。
カイデックスの成形は、今回もキクナイフスタッフ高橋君にお願いしました。
程よいテンションでパチンととまり、ブレイドが内側で当たらないように固定されます
ナイフを納めたフォルムも美しいです。
リング状の金具はベルトループになっています。仕上げは本体のパーツと同様です。
この作品は熱処理を終え、ブレイドが完成してからの作業が多いデザインでした。
おそらく今までで一番部品点数の多いナイフです。今回はコンターで切り出し、手作業で削りだしたのですが膨大な時間を消費する羽目に…殴る以外の技術の必要性を痛感しました。しばらくこの手のデザインは封印です。
もう少し技術が身につくなり、上手に外注を利用出来るようになったりしたら、またこういった表現に挑んでみようと思います。
といった感じで作品解説は以上になります。
今回、次回と作品画像をご紹介する予定です。これらの作品は、山下刃物さんで販売していただきますので、手に取ってみたい!と思ってくださった方、詳細はお問い合わせください。
山下刃物HP http://www.yamashita.org/
それでは、今回はこのあたりで。