双葉
- 2013/12/25
- 23:22
前回に引き続き、作品画像を掲載いたします。
今回もまた、いつもの鍛造ナイフとは違ったイメージの作品です。
「双葉」
全長 275mm
ブレイド長 145mm
刃渡り 145mm
重量 435g
ブレイド素材 ニッケル・コバール・ステンレス・鋼
エッジ鋼材 白紙1号
ハンドル ステンレス
シース 朴・綿・麻・ポリエステル樹脂・ステンレス
※画像をクリックすると大きいサイズでご覧いただけます。
ダマスカスナイフのブレイドは、酸によるエッチング等の処理で、黒っぽい色に発色させた仕上げが多いです。
この処理を施すことで、最大の特徴である模様がはっきりと表れるためです。
しかしこのナイフは、磨いたままの仕上げにしています。
正確には、軽くエッチングで処理した後、再び表面の着色層を取り去り、地肌の色が見えるようにしたもので、全体的に灰白色や銀色の見た目です。
これには理由がありまして…美大生時代、こういった色合いのダマスカスナイフのオブジェを制作しており、そのコンセプトの一部を引き継いでデザインしたのがこのナイフだからです。
では、そのオブジェが銀色だったのは何故かといいますと、これにもちょっとしたいきさつがあります…
振り出しは今回も、最初のナイフで遊んでいたころです。
前回お話しましたように、初めてナイフを手にした僕は、中学時代特有の病を発症してしまいます。
以降、それは順調に悪化し、とうとう「ナイフを作ろう」という動機で美大に通わせてもらうまでになりました。
そして金属を加工できる設備のある研究室に進んだのですが…
いざ自分のナイフのデザインを考えようとすると、どこかで見たようなものばかりが浮かびます。
それもそのはずで、インドアでナイフをおもちゃにしていただけの当時の僕は、道具として使う立場からの視点も、製品を生産する人間としての視点も持ち合わせていませんでした。
つまり、用途に合った刃やハンドルの形、利用する技術や素材ならではの形といった、デザインの着想を得るきっかけがなかったのです。
困りました。
そんな中で、ダマスカスに出会いました。
ダマスカスという素材、そしてそれを加工する鍛造やエッチングなどの技術を得て、ようやく自分なりの表現の探求が始まりました。
そして夢中なってでダマスカスをいじり回す中で、ダマスカス特有の積層構造による表情に引き込まれていきます。
散々手を加えたダマスカスに最後に生まれる表情は、毎回想像を超えた変化を見せつけてくれました。感想はただただ不思議の一言です。
自分の意識を介さずに出来る模様には、それそのものに意思が宿っているようで、神がかり的なモノを感じました。
その「神がかり」に触れ続けた僕は思ってしまったわけです。
「ナイフの神様の像を作ろう!」
「ナイフの神様の像」という発想は、ブレイド付け根から、ダマスカスの翼状のパーツ二枚を配置した姿に落ち着き、実際に制作しました。
仕上げのエッチングで模様が浮き出し、表情が変わる様子は相変わらず神秘的で、「神様の像」が本当に「神様」になったように思えました。
しかしここで重大な問題が発生しました。エッチングで模様を出すと、全体的に黒く色づいた中にニッケルの銀色がうねうね浮かびあがっている状態になるわけですが…これがどう見ても「邪神」の佇まいなのです。
やはり「神々しさ」を求めるならば白っぽい見た目にしたくなります。
カラスや蛇も、白いとありがたい雰囲気になります。
その後、何度か実験を行い、いくつかの技法を組み合わせることでで、地の色を出しつつ模様を見せる仕上げを手に入れることができました。
銀色になった作品に光を当てると、ダマスカスの繊維がふわふわと光り、模様も水が流れるようなゆらゆらした輝きを放ち、イメージ通りの表情になりました。
今度こそ「神様」降臨です。
この表現が気にいったため、在学中はずっと「ナイフの神様の像」シリーズの制作を続け、細かい表現を追求していました。
以前掲載しましたこの作品は、そのシリーズの一つです。
シリーズは作るごとに改良を重ね、また人間サイズまで大きくなっていくのですが、だんだん「ナイフ」のイメージが曖昧になっていることに思い至りました。
また、ナイフにかかわる方々の御意見を伺う中で、「手に取る」という要素の重要性も感じました。
こうして、従来のコンセプトにそれらの着想が加わり、「ナイフの神様の像」をナイフの形に収めた「神器」をイメージして、この作品が生まれました。
大変長くなりましたが、オブジェと同じ「神々しさ」をこの作品でも求めたため、鋼の地の色が見える仕上げにしました。
ブレイドは、ここまでの画像では白く見えていますが、光の加減で表情がコロコロ変わります。
事務室の棚に置くとこんな感じです。結構ギラギラしています。
ブレイドの刃先側は軽く磨いていますので、通常の室内では黒っぽく見える事が多いと思います。
ブレイド背中側は、少し深めにエッチングした為、灰白色の地の中に、溶けにくい素材の層が立体的に浮かび上がっています。
光を受けると、その角度によって光る模様が変わり、見ていて飽きません。
この作品のダマスカスは、背中側のこの効果に特にこだわった構造です。溶けにくい素材としてニッケル、コバール、ステンレスの三種類を混ぜ、光る層の中にさらにいくつか色合いの違う光を楽しめるようにしました。
また、自転車のチェーンに、レアメタルの粉をまぶしたものを練り合わせたダマスカスも使っています。このダマスカスの層では細かいツブツブの光を見ることができます。
ハンドルの部分は、翼のイメージを引き継いで、ブレイド本体から二枚のダマスカス板を伸ばした構造です。もともとの翼は繊維の集まりのようなパーツで、ところどころ向こうが透けていました。それを再現するため、いくつか穴をあけています。
その二枚の板の間に、ステンレス製のパーツを挟んでいます。
最初に何も考えず本体の構造を作ってしまい、ステンレスパーツの形を考えるのに苦労しました。
本体の造形のイメージに合わせつつ、握るときに足りない部分を補うように部材を付けたしました。
ステンレスのパーツは、板を溶接で組み立てて大まかに造形した後、手になじむように、溶接して肉を盛り上げて削る作業を繰り返して製作しました。おそらく3分の1くらいは板材ではなく溶接棒です…
これに、電気分解でテクスチャーをつけて仕上げました。
パーツに開けた穴は、単純に軽量化を目的としたものです。が、せっかくですので、本体の穴から見える部分にはちょっとした透かしのデザインを入れています。
このパーツは、叩き込むだけでしっかり嵌まりますが、鉈のようにがつがつ使ったり、思い切り振り回したりすると取れることがあります。
ちょっと振ってみたい、何か切ってみたい、ピンがあるほうが好み、という方には、画像の固定ピンを取り付けてお渡ししますので、お申し付けください。
とはいえ、ブレイド付け根から二つに分かれている構造ですので、衝撃にどのくらい耐えられるかは疑問です。
また、この部分の付近は粘り強さを維持するために、焼き入れによる硬化範囲をエッジギリギリに持ってきています。そのためエッジラインが大きく変わるほどに研いで使うと、切れ味が落ちてしまいます。
こうした理由で、ハードな使用には不向きな作品です。
シースは、朴の木の周囲に布を巻いて、樹脂で固めたものです。
身に着けるための鞘というよりは、ベッドというか棺というか…安置するためのケースとして製作しました。
シースの口にはハンドルのステンレスパーツをはめ込む溝があり、そこで噛んで固定します。
このシースは、ブレイドが鞘に当たらないようになっています。油を引いてこのケースに入れ、乾燥した場所で保管していただけばブレイドに錆びが出にくいです。
反面、木にブレイドをこすると傷がつく恐れがありますので、抜き差しは背中を沿わせるように慎重に行う必要があります。
リング状の金具は今回もベルトループになっています。 材質はこれもステンレスです。本体のパーツより若干明るめの仕上げにしました。
ベルトに装着することもできますが、仏像が背負っている後光のような…装飾的な目的で取り付けたパーツです。
画像は以上となります。
先ほども書きましたが、この作品は、「神器」をイメージしています。
使い込む道具…というよりも、普段は祀り上げておいて、ときどき手にとって眺めたり油をひいたりして、現代の日本刀のような楽しみ方をするアイテムとして制作しました。
前回の作品ともども、実用を主としたナイフではありません。
刃物として使わない以上は、もはや用途をもった道具である「ナイフ」とは呼べないのかもしれませんが…
僕にとっては、フィギュアとして眺めたり、神様の像として一人で崇めっ奉ったりいうのは立派な用途で、「ナイフ」はそれらに使う道具でした。
となると、僕にとってはこれらの作品もやっぱり「ナイフ」です。
ときどきはこういう作品も作って、色々な「ナイフ」の在り方を探してみようと思います。
………しかし、実はこういう「ナイフ」の使い方をしているのはているのは僕一人ではないのでは。
世の中には、一般的な「ナイフ」にも、僕の「ナイフ」にも当てはまらない、その人だけの用途をもった「ナイフ」が、まだまだ隠れているのでは…
そういう「ナイフ」が実際に形を持ったら、きっと他にない面白い姿をしているはずです。
自分の「ナイフ」を形にしてみたくなった方…自分で作るのは大変ですが、皆さんならではの「ナイフ」について、お話をお聞かせ頂けましたら形にするお手伝いができるかもしれません。
特にその「ナイフ」に変な質感や縞々のブレイドが必要な場合には、是非こちらまでご相談ください!
と宣伝したところで今回はこのあたりで。