お知らせと近況です
- 2020/06/20
- 12:35
お久しぶりです!
ウイルス流行の混乱も少しは落ち着きつつあるように見えますが、皆様お変わりありませんでしょうか?
広島では一時期完全に姿を消していたマスクが最近店頭に戻ってきまして、喜んで購入して装備しています。
どうせ人前ではマスクをするとなると、ついつい無精ヒゲを生やしてしまいますね。
顔が見えないと恥ずかしさが薄れるようで、髪もいい加減にしてしまいます。
さらに、お出かけも作業着のボロで良いかな…とエスカレートしつつありました。
しかし、ハッと。開業初期の頃の記憶が蘇りました。
余裕の無さから焼け焦げだらけの服のままコンビニに出かけた際、不審な火災を捜査中のお巡りさんに囲まれてしまったのです。
次も「善良な鍛冶屋です!」でご納得いただけるとは限りません。
ギリギリで踏みとどまりました。
ヒゲを剃って床屋にも行こうと思います。
さて、遡りまして二月の銀座ナイフショウ。
この時にお話をいただいた小物がいくつか仕上がりました。
Nさんの追加工したテーブルナイフとKさんのダマリング×2とを先日ご発送させていただきましたが、ご満足いただけましたでしょうか。
リングは端材のコレクションから良さそうなものを吟味して引っ張り出して、伸ばしてねじって丸めて叩き潰しました。
何かのブレードの背中あたりと、汎用の棒状部品の素材を引き当てたようです。
細かい層のニッケル控えめな大人しいものと、ニッケルみっちりのわかりやすいものになりました。
またの機会に御感想をお聞かせください。不具合等ありましたら御遠慮なく!
そしてN先生のブレードも打ちあがっております。
3月のオールニッポンナイフショーでお渡ししますとお伝えしましたが、出展を見送り、ショウ自体も中止になりました。
次にお会いする機会はいつになるか…
御希望でしたら発送いたしますので御連絡くださいませ。
ちなみに中止になったオールニッポンナイフショー。出展料の返却に合わせて、来年のご案内もいただきました。
その頃は状況が落ち着いていますように、です。
目下のところ、イベント関係はしばらく混乱が続きそうです。特に海外のショウは移動の見通しが立ちませんので、今年再び出展を申し込んでいた9月のフランスのFICXは現段階でキャンセルしました。昨年出展した11月のアメリカのショウも今年は申し込みを見送ります。12月の台湾のショウは、まず日本からウイルスを持ち込みそうでためらわれます。
国内では、僕が例年出展しているものでは10月の関のショウがあります。小規模なイベントは開催している場合もあるようですが、こちらは刃物祭りと合わせてかなりの人出が予想されるイベントです。例年そこまで広くない会場にみっちりですから、どうなるのでしょうか…
スケジュール未定では仕事しにくいので、年内はイベントには出展しないものとして活動することにしました。元々インドア大好き人間ですので、口実があれば喜んで引きこもります。
当面はこの状況に左右されにくい作業に力を注ぎます!
包丁は今のところ変わらず需要があるようで、ありがたく続けさせて頂いています。
これまでの制作で、ある程度の成果と、たっぷりの課題とを得て面白くなってきました。
失敗も多いのですが、何であれ鋼を触って扱い方を知っていくのは楽しいです。
そして僕が包丁を作る場合、目指すべき完成形をお客様やバイヤーさんにご指示いただけます。形が決まっているため、現れる課題は、どの程度の層数が効果的か?焼き入れ温度は?反りの修正は?ベルトの番手は?といった技術的で具体的なものです。
表現だの造形だのといった領域の課題に比べて出来の善し悪しが判りやすく、改善できるたびに成長が成果として実感できます。
品物の評価も包丁に詳しい第三者にいただけますので、モノがお褒めにあずかればひとまず喜んで大丈夫でしょう。
正解があやふやな領域で作品制作を続けてきた僕は、この仕事をこなすたびに強烈な安心感に襲われます。
キメ過ぎると脳がやられて、屋号に掲げた本懐たる「造形」を忘れそうで危ないです。
しかし、僕が今更作り始めた包丁だけにかまけていては、どうなるかはお察しです。包丁に関しては熟練した専業の方が大勢おられ、市場には既に高品質な製品が十分に供給されています。
取り返しのつかない過ぎし日々の重みがひしひしと感じられますね。
ということで造形刃物作家としての現在の目標「海外のお客様にオーダーを頂いて、銃刀法に気を使わずに好き放題に制作する!」に向けた活動も怠れません。
次の機会に備え、いくつか海外出展用の作品を長めの制作期間を見て取り組みます。果たしてそれまで僕と工場は健在でいられるでしょうか?あまり自信はありません!
まあ「次の機会」の到来が早すぎると、僕のペースでは作品完成が間に合わないという懸念もありますが…
オブジェ型と、シースナイフで、空港を通れそうなものを一本ずつ用意できると心強いですね。まったりと落書きをしつつ、盛り込みたい要素をまとめています。
完成イメージを描きながら部材の形や組み立て方、必要なダマスカスの構造も決まってきますので、下手だろうが雑だろうがまじめに描いておくと後が楽になります。
いくつかの構想温め中のオーダー分と合わせて、机に紙が散らかってまいりました。が、しまうと忘れるので、進行中の物は決して片づけてはいけません。
この工場に入る前の紙や、ひとまず完成したり、くじけた作品の物は撤去して大体保管しています。
こうしたメモには完成イメージの他にひらめきを描き殴ったものも多いので、何か使える発想が無いか、昔の束もひっくり返してみました。
古いものはダマスカスに出会った2002年のメモであるはずです。
昔の落書きは、素材と技法を知らないゆえに自由です。自由過ぎて今見るとナニコレどうやって作るの…というものも多かったりします。
また、きっちりした図面を描いても無駄という側面もありました。ダマスカスを思い通りに加工する能力がなかったのです。
これはピザカッター…?
ブレードが現行のモノと違い、軸穴をあけるデザインですので、かなり古そうです。柄を線材の鍛造で作る構想のようですね。
柄の尻が平たいのはスタンド付なのか、自立するようにしているのか…
まるで記憶がないので、なかなか楽しめます。
謎の抽象画も発掘しました!
線の勢いからして何かすごい構想を閃いて興奮して描いたのでしょうが、現在の僕には彼の意図をくみ取ることができません。
昔の落書きにはこうした訳の分からないものがそこそこありました。これには僕に画力と絵心が無いことも寄与していますが、根本的な原因はいきなりオブジェ型のナイフを目指したことにあるかと思います。
それは置物ですので、本来道具である刃物にとって一番重要な「用途」をデザインに組み込めません。そのため作品の全体像どころか刃の形すらも決める根拠が無く、曖昧なままのイメージが紙にぶちまけられてしまったようです。
しかし近年の落書きでは、絵の段階でおおむね形が定まります。
これまでに身に着けた素材の知識や技術と、身に染みた輸送や展示に法律といった世知辛い事情とが、頭の中で鋳型を作り、イメージをそこに流し込んで固めることができるようになりました。
これは果たして成長したのでしょうか?僕自身が型にハマってしまったという考え方もできてしまいます。
昔の作品ではふわふわの「なんかすごいナイフ」程度のイメージの方にダマスカスをあてがって合わせながら、技法をでっち上げてどうにか立体物にまとめていました。そのため、素材の面白さがストレートに出て、勢いと緊張感もあった気がします。
昔の抽象画群が意外に面白かったため、疑念は深まりました。
今はっきりと分かるのは、若い頃持っていた幅広い可能性が、あらかたツブシの効かない経験値に成り果ててしまった。という切ない事実。
せめて良いレートで交換できていると良いですね。
と。とりとめのない物思いにふけってしまう今日この頃。余裕ができたと思うとさぼりがちです。下手の考えはほどほどに、目の前の作品とのやりとりを喜びとして、日々頑張ってまいります!
それでは、そのうちにどこかのナイフショウでお会いできますよう、皆様元気でお過ごしください!