第16回刀興生活展
- 2019/08/03
- 21:40
「刀興生活展」は、近年では毎年12月初頭に台北で開催されているナイフショウで、昨年で16回目となりました。台湾でナイフ専門誌「刀與生活雜誌」を刊行しているジョニーさんが主催しておられます。
ジョニーさんは日本にも度々お越しになり、日本からの出展者の皆様とも親しくされているご様子で、堅苦しい雰囲気を感じないショウです。
そしてショウの後は、毎回ジョニーさんが参加者のために台湾観光ツアーを企画してくれています。
遊ぶ日本人観光客の皆様の図です。
出不精な僕は、遠方のナイフショウに出展しても行って帰るだけになりがちです。
毎度ありがたい経験をさせていただき、このところの年末の楽しみになっています。

ショウ自体も毎回賑わいますので、きちんと売り物をご用意して臨まねばなりません。
僕としては頑張り、5本並べることができました。

テーブルの右側は主に販売コーナーとなっております。
商品の中では、前列中央のコレが自信作です。
昨年の木+鉄の鞘を付けた小刀が気に入り再度制作したものですが、ちょっと工程を変えてみました。
模様・形共にいい感じに決まってくれました。
鍛造でざっくり成形した棒を気分で彫り崩した歪な形です。
しかし、右手なら色々な持ち方でおさまりが良いです。
このおしりの部分を手のひらに当て、ブレードの背に人差し指を添える、ステーキナイフのような持ち方が一番しっくりきます。
ちなみにおしりの先の渦巻き模様が一番のチャームポイントです。
鞘は革を金属で覆ったものに戻しました。革のほうが木よりも作りやすいことに加え、出し入れで大きな傷もつきにくいです。ちょっと地味ですが、やはり鞘はこのタイプがよさそうです。
納めた姿がサマになってきたとのご意見もいただきまして、うれしい限りです。
テーブル左側、ケースに入れて展示しましたのは、昨年前半に完成したこちらの作品でした。
過去作をご覧になった台湾のお客様からオーダーを頂き、制作したものです。
ブレイドのダマスカスは、背中にかけてだんだん太くなる白い線が出る皮鉄で、刃先に高炭素鋼のダマスカス、背中にモザイクダマスカスを挟み、さらに表面の手元側にステンレスやニッケルを多めにしたダマスカスを貼り付けました。
最後に貼ったダマスカスは、ブレード側に明るい色味を増やすために行った加工です。
過去作の完成時に、隣り合う口金の銀の明るい色と、ブレードの鋼材の暗い色との差が大きく感じましたので、改善を試みました。
彫りの浅い部分に残って、なかなかの仕事をしてくれました。
概ね満足でしたが、銀の質感がダマスカスや他の素材に比べて弱いです。
この部分は複雑な形状をカッチリ合わせる為に、鋳造を利用して制作します。鋳造は形の制御が簡単ですが、代わりに素材が均一な銀の塊になってしまいます。
そのため、他のパーツで用いる「何らかの処理で質感を増す」という操作ができません。
いくつか改善案はあるのですが、まだまだ実験中です。
鞘については、こんなん下げて外歩かんでしょ…と割り切りまして、見栄え重視のごつい仕様です。
朴を内張りした太い紫檀の本体に、さらに塊のような銀パーツを取り付けましたので結構な重さになりました。
鞘に納めるとほぼ棍棒…迫力は出たかと思います。
重いので、万が一装備して出歩く必要に迫られた場合は、お出かけシースを別注していただいたほうがよさそうです。
この作品は空港を通るのが怖いデザイン、そしてサイズでしたが、輸出用の制作許可を得られましたので安心して仕事に取り組めました。
夏に業者さん経由で納品しましたが、今回、ショウのためにお借りすることが出来ましたので飾らせていただきました。
全力の最新作を展示できましたので、胸を張って座っていられました。ご縁に感謝です!
会場の作品もいくつか撮影させていただきました。
僕が気になるのはやはりダマスカスだったり、造形的だったりする御作品です。
こちらは島田先生の白頭鷲の折り畳みナイフです!僕の説明は蛇足になるでしょうね。
例年、島田先生は福田先生とタッグを組んで、年末前後に手の込んだ作品二点を制作・発表しておられます。
そのため、12月のこのショウではほぼ仕上がった状態で拝見することが出来ます。
こちらが相方となる作品です。ブレイドとハンドルの一部に、また僕のダマスカスを使っていただけました!
ブレイドは最近包丁用に研究していた炭素鋼系のダマスカス、ハンドルにくっついているのは、大昔に作った銅を混ぜ込んだダマスカスです。
鋼に銅や真鍮を入れるダマスカスは作成が非常に難しい上に、折り返して細かくしたり、鍛接で組み立てたりという僕の得意な加工には不向きですので、もう二度とやらないと心に決めています。
しかし、こうして研削加工で成形できる方になら有効利用していただけますね。作りませんが!
こちらは、平山晴美先生の作品です。
僕が国内で出展するショウには平山さんは出展されておらず、台湾で初めて生の作品を拝見しました。数年に一度出展していらっしゃるようです。
こちらのナイフはステンレスのブレードに、おそらく洋白の金具と鹿の角のハンドルという素材の組み合わせで、全体的には正統派のナイフという趣です。
そこに様々な素材が精密に象嵌されていますが、この図案や色味がどことなく日本的で、独特な雰囲気を醸し出しています。
こちらは猫のハンドルの作品です。
かわいいです。
当然、日本人以外の作家さんも多く出展しておられます。
こちらの作品は今回の最優秀フィクスドブレイド賞、中華テイストです!
火を吐く龍をモチーフにした造形になっています。
材質はダマスカスで、彫刻部分の模様に工夫がありまして、興味深く拝見しました。
ヨーロッパ・フランスの作家さんもお越しです。
この方はPierre Reverdyさん、台湾のショウには頻繁に出展しておられる印象です。
以前の台湾ショウでは極めて造形的な作品を展示しておられ、大いに勉強させていただきました。
精密な図案の模様を持つダマスカス制作のスペシャリストで、以前FICXの記事でご紹介しました、鳥の模様のダマスカスを用いた折り畳みナイフの作者さんです。
テーブルにはそのナイフと共に今回の最優秀アートナイフ賞のトロフィーが並んでいます。
よく見ると、作品の前に台湾固有の鳥の名、「台湾藍鵲」のメモ書きが置かれています。この鳥がモチーフの台湾向けの作品だったようです。
よく見れば、確かにあの鳥の特徴を捉えたシルエットになっています…なんとも凄まじい技術です。
別の国の方々の作品は技術も感覚も目新しく、刺激をいただけます。
そうした作品群を拝見するのは国外のショウでの大きな楽しみです。
さらに今回は、ショウの後にも珍しいものに触れる機会をいただけました。
先ほどの展示作品のお客様のお宅にお招き頂きまして、お邪魔してまいりました。
台北市街から北に向かって車で数十分、陽名山という山の上にその建物はありました。なんでもコレクション保管用の家とのこと。
「家」よりは「館」と呼びたいサイズの建物で、レンズの画角が足りません。
まずはお借りしていた作品を無事に返却。
ひとまず腰を落ち着けたスペースには大きな窓があり、台北市街方面の景色が…この日はあいにくの天気で中心部までは見通せませんが、本来は左手奥に中心部が見えるそうです。
開放的な空間ですね。
刃物が好きな方だと思っていましたが、それにとどまらず様々なものを蒐集しておられるようで、室内では様々な美術品がインテリアとして活躍しています。
いつもの緑に囲まれた環境の対極、久しぶりに文化的な空気を呼吸させていただきました。
同行していただいた台湾の刃物業者さんも、非常にいい顔でくつろいでおられます。
学生時代は作品を作る側の世界に触れていましたが、販売後のその手の品々は公共・商業施設以外ではあまり見たことがありません。
個人で購入する方はどうしているんだろう…と疑問に思っていましたが、実例を拝見できてうれしい限りです。
なんとフィギュア展示用のエリアも。
美術品となるとちょっと縁遠いですが、こちらは比較的親しみやすい文化な気がします。
気に入ったものを集めて眺める楽しさは、どんなジャンルでも案外変わらないのかもしれません。
ナイフのコレクションに関しては、普段は収納しておられる様でした。
台湾の気候を考えると、僕の作品は錆が心配でしたが、油をひいてしまっていただけるのでしたら安心です。
この日は業者さんがキクさんのナイフや、ファクトリーのナイフ等を納品しておられました。実用的なナイフも集めておられるようですね。
その際に、コレクションの一部を机に並べて見せていただけました。
こちらは、どれも手の込んだアートナイフのようです。
よくよく拝見すれば、顔の金具に合わせた、顔の模様のモザイクダマスカスのブレイド。どこかで見た技術…並んでいたのは、いずれも先ほどのPierreさんの作品でした。
こちらのお客様はPierreさんの作風がかなりお気に入りのご様子で、納品される商品にはあの鳥模様の折り畳みナイフも含まれていました。
こちらは波打つ葉のようなイメージで統一された作品に見えます。
ハンドルは骨か角か…彫刻が施されていますが、内部の髄のような部分の質感も活かされて面白いです。
何よりダマスカスのブレードは他では見ることのできないPierreさんならではの表現で、圧巻でした。
今回は僕の作品もコレクションに加えていただけて光栄ですが、こうした高度なダマスカス作品と一緒になってしまうと考えると、気後れしてしまいます。
国外のお客様からのご注文で制作する場合は、デザインが日本の規制に縛られません。
お客様がお住いの地域の規制に合わせて制作することになりますが、日本よりも大らかな国が多く、国内向けよりも自由に造形できます。
観賞用の刃物を作る僕としては、積極的に受注を目指したいと考えています。
しかし、海外からわざわざ僕に注文を下さる様な方は当然、世界の素晴らしい作家さん達をご存知です…道の険しさを痛感しました。
僕ももっと、これだけは自信がある!という技を磨いて、表現を突き詰める必要があります。
ということで、昨年も貴重な経験をさせていただいた台湾でした。
ちなみに今年の開催スケジュールはこんな感じだそうです。
例年よりやや早く、そして会場が違います。
今回も申し込ませていただきましたが、FAXはちゃんと届いているでしょうか…。出展が確定しましたら、またWEBサイトのほうでご紹介いたします。
とりあえずモノが御用意できるよう、鋼材の制作に励みます!