FICX-Paris 2018
- 2018/11/20
- 00:00
関の少し前の九月中旬、初参加の海外ナイフショウに出展してきました。


海外のショウとしては、ここ数年ほど台湾・台北で開催される「刀興生活展」にお邪魔していました。
おかげで外国への出展にも少し慣れてきましたので、今回はもう少し遠く…
電話の地図上で、広島から9500kmくらい左のちょっと上。
フランス・パリで開催された、「FICX」というショウに参加してまいりました!
ヨーロッパともなりますと、ホテルからの景色はまさに外国。
道行く人もガチな外人さんばかり。
移動距離を実感できます。
会場は市内の「Carreau du Temple」という多目的ホール。
1800㎡の広さに約100テーブルの出展で、ゆったり楽しめる密度でした。
このショウには、アートナイフ系の作家さんが集まっているとのことです。
会場には様々な技法を用いた「美術工芸品」という趣の作品が多く並んでいまして、僕も楽しく拝見できました。
まず目が行くのはダマスカスです。
「ダマスカス」の呼び名の由来は、同じく「ダマスカス」という名前の都市です。
大昔、そこで作られた刀剣は優秀な性能で「ダマスカス刀」のように呼ばれて珍重されていたようです。
その素材は縞模様の浮かび出る鋳鉄のインゴットだったとか…
それが本来の「ダマスカス鋼」なのでしょうね。
しかし、現在では異なる鋼を重ね合わせた模様のある鋼、及びその技法も「ダマスカス鋼」あるいはシンプルに「ダマスカス」と呼ぶようで、僕もそれに倣っています。
ヨーロッパでは、この後者のダマスカスが盛んに利用されてきたようです。
僕にダマスカスを教えてくださったのも、オランダ人のMendel Jonkersさんでした。
このショウは、ダマスカスの本場での開催ということですね。
アートナイフが集まるショウということも相まって、並んでいるのナイフはほとんどダマスカスのブレードでした。
このモザイクダマスカスのブレイドは鍛造して作ってあるようで、模様がブレイドラインに沿っています。
デザインも華やかですね!
勉強になります。
こちらはシンプルな共柄のナイフですが、彫金による装飾が施してあります。
やはり勉強になりますねえ。
ダマスカスの折り畳みナイフです。
模様は細かい粒状に見えるのですが…
よく見ると樹と鳥です!
高度過ぎて勉強になりませんねえ。
そして、造形的な作品も多く見ることが出来ました。

ロシアの彫刻家さんの作品。
どこかで拝見した画像によると、確か上半身を引き抜くとナイフになっていたはずです。
別の方とお話し中でしたので、写真だけ取らせていただきました。

こちらもロシアの方。
溶接を駆使したテクスチャーが楽しいです。

しかも、回して遊べます!
実演していただいたところ結構な速さで、笑ってしまいました。
危ないです!
西洋剣も展示してありました。
日本でも様々なコンテンツに登場しますので慣れ親しんで…いる気がしていましたが、実物を見るのは初めてでした。
まさに僕の思い浮かべる「剣」のイメージそのもの。
かっこいいです。
ヨーロッパまで行った甲斐がありました。
いくつもありましたが、どれも形、装飾共に工夫が凝らしてあり、見ごたえがありました。
国内で観賞できる日本刀とはまた違う魅力です。
…などと思っていると、日本刀風の作品も。
作者はイタリアの方でしたが、日本の大学を出て、しばらく企業でお勤めされていたそうです。
形としてはシンプルな合口拵えの短刀ですが、外国の方が作るとまた違う味付けで面白いです。
日本刀をお刺身とすると、こちらはカルパッチョでしょうか。
ちなみに画像のナイフは、日本国内では「刃渡り15cm以上の刀」に分類され、製造も所持も規制されています。
また、こうした外装の場合、15cm以下に短くしても今度はおそらく「あいくち」に分類されると思います。
これも同じく規制されているようです。
うっかり作らないようにご注意を!
先ほどのような両刃の「剣」についても、刃渡り5.5cm以上のものは規制の対象です。
フランスでは持ち歩かない場合には規制がないようで、会場には両刃の短剣型の作品も多く並んでいました。
日本の「剣」についての規制も、以前は「刃渡り15cm以上」でしたので、こうしたタイプの作品も時折見ることが出来ましたが、規制変更以降はほとんど無くなりましたね。
久しぶりに両刃のナイフを見ましたが、やはり左右対称のシルエットは美しいです。
特に、立てた際にビシッと決まるのはこの形状だと思います。
僕が刃物に関心を持ったきっかけは、子供の頃遊んだテレビゲームに出てきた「剣」でした。
両刃のナイフには、そうした「剣」のイメージを強く感じますので心惹かれます。
そしてああいったゲームは、何故か中世ヨーロッパ風の世界観、剣もそれっぽいデザインが多かったのです。
合わせ技で、これらの作品達は僕の嗜好のど真ん中を直撃しました!
これ程にどこを見ても楽しい展示会はそうそうありません。
カメラを引っ掴んで彷徨い歩きました。
本当は見るだけではなく、自分でもこうした形を作りたいのですが…。
刃物を作る人間としては、規制の緩い国は羨ましい限りです。
しかし、実は日本国内でも規制対象の刃物を作る許可を得られる場合があります。
その一つが、輸出を目的としての制作です。
海外のお客様からのご注文をいただいた上で刃物を製造・販売する場合、輸出業者さんが「銃砲刀剣類製造届出書」なる書類を作って、警察に許可を申請してくださいます。
それが認可されれば、その刃物については日本国内の規制が適応されず、輸出先の国の法律の範囲で自由に造形できます。
これは比較的現実的な方法で、僕も何度かこの制度を利用して制作させていただきました。
お客様の国が許してくれるなら、長かろうが両刃だろうが、おそらく鉄砲だろうが問題ありません。
見た目が全てな観賞用の刃物作家にとって、大変ありがたい制度です。
純粋に造形だけ考えてデザインするのは楽しいですし、大型作品の制作はサイズに比例したやりがいがあります。
機会を見つけて積極的に挑戦したいです。
ただし、まずはご注文をいただく必要があります。
それには外国のお客様とのご縁に恵まれる必要がありますが、国内のショウではその機会は少ないです。
そこで、こうした海外のナイフショウに出展という次第です。
特にこのショウはアートナイフ専門、ここのお客様には僕の作品に興味を持っていただけるかも…との期待を胸に申し込みました。
遠方のこのショウに参加するには、国内や台湾のショウよりも出費がかさみます。
折角なので全力の作品をもって参加したいところ。
僕の直近の自信作は、春からやっていたこちらの「酔月」の新型です。
が、残念ながら9月には既に納品済みで現物は持って行けませんでした。
図録には画像を掲載していただけましたので、宣伝になるとよいですねえ…。
そして、この作品の完成はなんやかんやで8月に差し掛かってしまいました。
並行して大作を仕上げるのは難しい状態でしたので、今回は簡単なものをバリエーションを重視して準備し、得意な表現にどういった反応をいただけるかを見ることにしました。
とりあえずいつもの小刀に、
きれい系担当にやはりいつものピザカッター。
しかし、今回は初の台付です。
下の部品の穴に棒を挿して立てましたが、握り心地の都合でコレが斜めについているため、不安定です。
気合を入れて刺せば固定できるかと試してみましたところ、いきなりクルっと回って横になりました。

怖すぎますので、回らないように棒と穴の奥のほうの断面を楕円に加工しました。
得意分野の出土系のサンプルとして、こんなものも。
木の鞘に、鉄を中途半端に被せてみました。
本当は鉄の鞘と木の鞘の作品を用意したかったのですが、余力が無いのでまとめました!
思ったより大変でしたので、もうやりません。
そしてお借りしっぱなしの「双葉」と、小物少々…あとはカタログや写真で机を埋めるいつもの感じです。
画像の右のほうにあるのは学生時代に作っていたナイフをモチーフとしたオブジェ、その新仕様の試作二号です。
ダマスカスの小片を鍛接して板を作り、先端は磨いています。
僕が輸出用として一番作りたいものは、このシリーズだったりします。
今回の試作二号は左右非対称な先端にした場合の、大まかなデザインを考えるのが目的でした。
昔は左右対称な造形にしていましたが、一応先っちょはナイフ状ですので規制に気を使っています。
作って改めて見てみると、やはりシンメトリーのほうがいいですねえ…
こうした刃物だかなんだかわからないような物体が、規制に触れるかの判断は難しいです。
まともな刃物の場合は警察署で図面を見せて質問すると「大丈夫」とか「この形はだめだからこうして」等と具体的にご指導いただけるようなのですが、こういった物についての質問は、お巡りさんも困ってしまうようでした。
まずは法的に低リスクなデザインでサンプルとしての作品を制作→それを海外のショウで展示してお客様を探す→新作のご注文をいただく→上記の手続きを踏んで輸出用として次の作品を制作する…という手順が、今の状況では最良だと思います。
そのために、ショウの会場で展示しやすい方法を考えることもまた、この試作の目的でした。
以前、このタイプの作品を海外のお客様にお買い上げ頂いたことがありました。
折角ですから飾っていただけるようにしようと、壁掛け用のケースを作り、その中に固定しました。
制作時は展示や固定の事は考えず、単純にきれいな形を目指したのですが…
いざ、固定の必要に迫られると、大いに悩むことになりました。
小さい万力のような金具をでっち上げて何とかしたのですが、一苦労でした。
毎回これではたまりません。
しかし、ナイフ本体にねじ等の露骨な異物を付けたりするのは、あまり気が進みません。
そこで半筒状の内部に腕を生やして台を掴める構造にしました。
今作は無事設置に成功し、二日間お客様にご覧いただけました。
この方向できれいな形を考えてみます。
肝心のお客様のリアクションはといいますと、ナイフの形をしたものは「面白い」とお買い上げいただけました。
ダマスカスの模様は英語では「パターン」と呼ばれ、はっきりした模様が主流のようですが、僕の仕事では細かい層にしたり溶かしたりしての「テクスチャ」というべき模様が多いので、目新しいのかもしれません。
オブジェは今回は販売・受注に至りませんでしたが、意外にも一番熱いリアクションをいただけました。
わけがわからない作品ですが、ダマスカスと面倒くさい鍛接を結構頑張っています。
鍛造やダマスカスに詳しい方々は、ある程度そういった部分のわけをわかってくださるようです。
そして鍛造のダマスカスが普及しているおかげで、このショウにはそうしたお客様が多くお見えになるようでした。
手応えを感じましたので、次回はもっと手を入れたものを制作し、また出展させていただくつもりです。
また、会場にはアメリカのショウの主催者の方もご来場になっており、お声をかけていただけました。
そちらも、アートナイフの作家さんを中心に出展を募っているそうです。
法律や雰囲気を調べて、よさそうでしたらそちらへも出展をお願いしてみます。
アメリカは削るナイフが主流と聞いていますが、果たして…
ご縁が大事なこのお仕事、作品と一緒にウロウロするのも、制作と同じく大切です。
今までのショウに加え、海外での活動範囲もじわじわと広げていこうと思います。
そして制作許可を頂いて、両刃のオブジェや、大きな剣なども打ってみたいものです。
いつか面白いものを作ることが叶いましたらまたご紹介いたしますので、笑ってご覧いただけますと幸いです。