鉄を打つ二人・前編
- 2018/06/29
- 12:23
先日、また軽トラを買い換えました!
軽トラ2代目が最近いよいよ不調でして…そろそろ休ませることにしました。
しかしすっかり愛着がわいてしまったので、またまた同じ車種です。
ただこの3代目は仕様が異なり、「スーパーチャージャー」なるエンジン出力を上げる装置を装備しています。
初仕事は炭200kgの輸送でしたが、登り坂でもグイグイ走ってくれました。
まるで別物の力強さ。運転中はウキウキです!
あとはクーラーがあれば完璧でしたが、無いです。
…今年も暑くなってきましたね。
ちなみに炭の荷主、先ほどの画像で作業中の人物は、大学時代の後輩「秋田和良」さんです。
手拭が似合う男前。作業風景も絵になります。
彼は、僕が大学にスタッフとして所属していたころ、大学院を受験して入学してきました。
前の大学で、彼は鉄の造形を研究してきたようです。
入試当日、面接用に巨大な鉄のオブジェを持参して現れた彼の雄姿は衝撃的で、いまだに鮮明に記憶しています。
入学後も鉄を扱うことを希望した彼は、刃物を作る僕と同じ作業場に割り当てられました。
10年目にして初めて鍛造する仲間を得ることが出来まして、うれしかったですね。
大学院を修了後、彼は広島の山間部「加計」という地域で野鍛冶を受け継いで、鉄を打ち続けていました。
その鍛冶屋さんは比較的ご近所にある、昔ながらの建物です。
ご本人の仕事も面白いので、そのうち記事にと考えていたのですが…ぐずぐずしているうちに広島県の東端・福山市に自前の工房を開設、移転されました。
さみしくもあり、うらやましくもありますが…なにより鉄を扱う同業者、工房が気になります。
先ほどの輸送を口実にお邪魔してきましたので、今度こそは御紹介いたします!
秋田さんの新しい作業場です!
この春に造られた、まだ建材のペンキが香るピカピカの工房です。
古い工場に慣れた目がチカチカします。

鍛造機の周りはスペースを設けてあり、周辺の設備は移動可能な作りです。
一口に鍛造といっても、野鍛冶さんへの依頼は多岐にわたります。作業場にも相応の柔軟性が求められるのかもしれません。
建築金物や造形的な作品の制作にも意欲を持っておられるので、それらへの配慮もありそうです。
実際に、工房の片隅には大小さまざまな鍛造品が並んでいました。
僕の知る限りでは建築金物に、特注品の道具・農具、包丁・鎌・鉈等の実用刃物、地域で盛んな神楽で使う刀、と、幅広いジャンルの注文を受けておられます。
画像撮影時の背中側にも、謎のコテ状の鍬が数個並んでいました。
オーダーを頂いてモノを作る際には、お客様としっかりお話しして御要望を確認することが大切です。
近年の秋田さんと一緒に行動する際には、地域の方、特にご年配の方との会話の巧さに感心する機会が多々ありまして、普段の仕事ぶりが想像できました。
真ん中の長い棒は「錫杖」とのことです。
先端の作りこみは、鍛造技術への深い造詣を窺わせます。
デザインには、鍛冶屋の使う火箸のような要素も見て取れます。
彼は鉄の古道具が好きなようで、どこからか手に入れては観察したり使ったりしていました。
それらも彼のセンスを磨いてくれたのでしょう。
鍛冶屋としての経験も加わり、僕では思いつかない造形になっています。
柄の部分のデコボコも鍛造で成形するのですが、ひねりも利用した複雑な手順が必要です。
この加工が上から下まで、同じ調子で施してあります。大変な仕事です。
その脇には、鉄の板を巻き上げて作った燭台がありました。
このデザインには、切れ目に沿ってつまみを滑らせ、ろうそくを繰り出す機能も備わっています。
おそらく学生の頃の作品です。
懐かしいものを見つけてしまいました。
台の上には、鍛造による小品や試作片のようなものが並んでいます。
ここにも見たことがあるものが多い気がしますね。
加工中の鉄の一瞬ごとの変化、彼はそれらを観察し、面白い要素を見つけ出してきます。
そして、動きを止めた鉄をしげしげと眺めているのでした。
そうして生まれた小さな鉄達は秋田さんの観察記録、鉄の所作の標本だと思います。
これらを眺めると、秋田さんの視点をほんの少し、共有させてもらえます。
ダマスカスを刃物にすることで頭がいっぱいの僕には、彼が鉄に向ける眼差しが新鮮で、多くの刺激を受けました。
また、コンセプトは異なりますが、秋田さんもダマスカス的な仕事をされたことがあります。
色々な古い鉄の道具を鍛接でまとめてインゴットにし、さらにそれらを鍛接で固めた円柱形。
異なる鉄達の縞模様とインゴットの境界との組み合わせが楽しい、いい感じの鉄塊です!
結構大きな作品で、20kgくらいか、もっとあったでしょうか…
鉄が鍛接、鍛造されて役目も形を失っていく様子に着想を得た彼が、大学院の修了制作として提出した作品です。
上のピロンとしたところには、元の道具の形が残っています。
彼はここが気に入っているようで、展示の際には取れないように非常に気を使っていました。
この作品を作りながら、きっといろいろな面白さを見つけてしまったことでしょう。
この方向での続編も、ひっそりと期待しています。
さて、こうした作品を生み出すには、手で叩くだけでは文字通りの力不足。
鍛冶屋さんの工房といえば、主役は鍛造機です!
秋田さんの新しい相棒は、出来立ての工房の一番奥で、重々しい存在感を放っていました。
広島で眠っていたものを譲り受けたとのことです。
銘板には「日本製鋼 廣島製作所 製造番号No.11009 製造年1946」とあります。
僕が見た中では一番古いものかもしれません。
貫禄のある佇まいです。

古いだけあり、設置後すんなり作業開始とはいかなかった様です。
モーターを新調する必要があったり、各部の状態もあまり良くなかったり…
秋田さんは一から鍛造機を設置するのは今回が初めてで、「クラッチつなぐと動かないです!」と、ご相談を頂いたりしました。
僕も鍛造機には苦労したので、何か役に立つ助言が出来ればいいのですが、人の機材は勝手がわからずヤキモキするばかり。
思えば僕の工房開設時にも、お世話になっていた鍛冶屋さんには大変心配していただきました。
いまならそのお気持ちが少し、わかるような気がします。

しかし先日、とりあえずの運転に成功したとのご連絡がありました!
様子を動画で見せていただきましたが、なかなか軽快に動いています。
まだまだ調整は必要かと思いますが、新工房の本格始動にむけて一歩前進です。
場所は変わりましたが、加計で磨いた腕と、つながった多くのご縁が、これからの彼を支え続けてくれると思います。
僕も陰ながら応援しています!
新しい環境で、さらなる飛躍を遂げられることをお祈りします!!
「秋田和良」さんのご紹介でした。
彼が気になる方は、お名前か「鍛冶工房金床」で調べていただけますと、彼の軌跡と魅力的な作品達をご覧いただけると思いますので、ぜひぜひ。